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中村瓦のよもやま話~part21~

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皆さんこんにちは!
株式会社中村瓦の更新担当の中西です!

 

さて今日は

中村瓦のよもやま話~part21~

~時代の変遷~

 

 

屋根瓦は、日本の風景そのものです。鬼瓦や唐破風に象徴される装飾性だけでなく、暴風雨・強日射・積雪から家を守る“外皮”としての機能を担ってきました。ところが、素材・工法・法規・住まい方・気候条件の変化によって、瓦屋の仕事は大きく変容しています。本稿では、歴史の流れを追いながら、いま何が求められているのか—そして次の一手—を現場目線で整理します。


1|時代別ダイジェスト:何がどう移り変わったか

① 古代〜江戸:象徴性と地域性の時代

  • 本瓦葺き・和瓦が主流。土と木の家に調湿・蓄熱で寄り添う外皮。

  • 地域の土と釉薬が色味を決め、鬼瓦・巴瓦など装飾瓦が家格や信仰を表現。

  • 棟積みは土・漆喰で湿式が基本。技能は徒弟制で継承。

② 明治〜戦前:工業化と規格化

  • 登窯から連続焼成窯へ、生産の安定が進む。

  • 洋風建築の影響で平板・S形などの意匠が登場。

  • 流通が広域化し、地域材→規格品の時代へ。

③ 戦後〜高度成長:量産と多様化

  • 新築ラッシュでセメント瓦や金属屋根も台頭。

  • モルタル葺き・湿式棟が標準化し、スピード重視。

  • 住宅工法の変化(在来→プレハブ等)で下地・野地板の標準化が進む。

④ 平成〜令和:性能・耐久・保全へ重心移動

  • 地震・台風多発を背景に全数緊結(釘・ビス)/乾式棟/強化桟などガイドライン工法が普及。

  • 改質アスファルト系ルーフィング、透湿防水シート、通気層の採用で防水・排湿を“設計”する時代。

  • 新築偏重からリフォーム・点検・保全ビジネスへ。ドローン点検・写真台帳が定着。

  • 意匠は低勾配対応のフラット瓦深色マットなど、現代外観と調和する方向に。


2|工法のアップデート:湿式から乾式へ、経験から根拠へ

  • 緊結の原則:昔の「要所のみ固定」から**“全数”機械的緊結へ。桟瓦はステンレス釘/ビス、軒・袖は風圧係数に応じて増し締め**。

  • 棟の設計:土盛り・漆喰依存から乾式棟金具+通気棟へ。地震時の自重崩れ・台風時の負圧剥離を抑える。

  • 下葺材:アスファルトフェルト単独から改質アスファルト・高耐久シートへ。重ね幅・立上り・貫通部処理を図面で明文化

  • 通気・断熱野地換気・通気垂木で夏の小屋裏温度を低減。瓦の空気層+蓄熱を生かしつつ、遮熱ルーフィングでピーク抑制。

  • 雪・海風対応:雪止め金具の配置計画、塩害地は釘・金物の**材質統一(SUS)**と被覆仕様をセットで。

ポイント:“止水×排水×通気×緊結”の連続性を設計図と写真で説明できるかが、信頼の分かれ目。


3|市場構造の変化:新築の減少と“ストック長寿命化”

  • 新築縮小・既存の延命:屋根替え・葺き直し・部分補修・ルーフィング更新が主戦場に。

  • 保険・災害対応:台風後の迅速点検・見積・復旧が評価軸に。ドローンで危険箇所を非接触確認、保険書類用の写真台帳を即日提出。

  • 景観・文化財:町並み保全や社寺修理で伝統工法の再評価。現代材料とハイブリッドで長寿命化。


4|サステナビリティ:長寿命=最小環境負荷

  • 瓦は耐久年数が長く、再塗装を要さないため、ライフサイクルCO₂で有利。

  • 太陽光は架台ビスの止水設計直葺き対応金具を条件に、BIPVも選択肢へ。

  • 解体時は陶器原料や路盤材へリサイクル。梱包・廃材の分別も“見える化”が評価。


5|いま顧客が求める「5つのニーズ」

  1. 耐風・耐震:ガイドライン準拠の全数緊結/乾式棟、端部強化。

  2. 雨漏りゼロの根拠下葺材の仕様・重ね・立上りの写真と図面で裏付け。

  3. 夏の快適性通気棟・換気部材・遮熱下葺きの提案。

  4. 長寿命・低メンテ:釉薬瓦+SUS金物で塩害・凍害にも強い仕様。

  5. 迅速な点検と証跡ドローン写真/劣化診断シート/見積の透明性


6|瓦屋の“やりがい”はどこにあるか

  • 性能が数字で返ってくる:風・雨・熱の設計が、漏れない・飛ばない・涼しいという結果で検証される。

  • 10年後の景色をつくる:色褪せず、静かに機能する屋根が町並みの品格になる。

  • 伝統と先端の橋渡し:鬼瓦や本葺きの技と、乾式金具・ドローン診断・写真台帳が同じ現場で共存する面白さ。

  • “今日の一枚”の積み重ね:葺き終えた勾配を振り返る瞬間の達成感は、他に代え難い。

  • お施主の言葉が近い:「夏が涼しくなった」「台風でも安心だった」が励みになる距離感。


7|現場で効くチェックリスト(抜粋)

設計・見積

  • 勾配・地域風速・積雪・塩害区分を反映

  • 下葺材の等級/重ね寸法/立上り図示

  • 棟の通気量・金具ピッチ・端部強化の明記

施工

  • 全数緊結(釘/ビスの材質・長さ・本数)

  • 役物(軒・袖・棟・谷)の固定とシールは一次止水、下葺きで二次防水

  • 貫通部(太陽光・アンテナ)の止水ディテールと写真記録

引渡し

  • 施工写真(全景→中景→接写)と仕様台帳

  • メンテ周期(点検:年1、葺き土/漆喰補修の目安)

  • 保証条件(風速・飛来物・第三者工事との関係)


8|ショートケース

海沿いの二階建て(台風常襲地)

  • 改修前:湿式棟が台風で破損、袖瓦の抜け。

  • 改修後:乾式棟金具+通気棟/全数ビス緊結/SUS金物統一

  • 効果:翌シーズンの台風で被害ゼロ。小屋裏温度も体感で約−2〜3℃(居住者談)。

築35年の寄棟(盆地・酷暑)

  • 改修前:小屋裏温度上昇、夏の冷房効かず。

  • 改修後:野地換気+棟換気+遮熱下葺きを追加、瓦は再利用。

  • 効果:冷房の立ち上がり改善、結露軽減。延命と光熱費低減を両立。


9|90日アクション(事業者向け)

  1. ガイドライン準拠の標準仕様書をA4二枚で整備(下葺き・緊結・乾式棟)。

  2. ドローン点検→写真台帳→見積の“即日フロー”を整え、台風期の対応力を高める。

  3. 通気・遮熱の提案メニュー(換気棟、野地換気、遮熱ルーフィング)を価格表付きで用意。

  4. 太陽光の貫通部ディテール集を作り、他業者工事でも“止水責任の範囲”を明確化。

  5. 施工3現場のデータを振り返り、飛散・漏水ゼロの要因をSOP化。


まとめ:伝統を“性能”で語る時代へ

瓦屋業は、意匠と象徴の担い手から、風・雨・熱に対する総合エンジニアへと進化しました。
これからの価値は、

  • ガイドラインに根ざした確かな緊結,

  • 止水だけでなく排湿まで含む下葺き設計,

  • 点検・記録・提案のスピード,

  • 長寿命=環境価値
    で決まります。

今日も一枚の瓦を正しく置くことが、十年先の家族の安心と、町並みの品位を守ります。伝統は、進化する現場の中にこそ息づいています。